「ICT」という言葉を耳にする機会は増えました。しかし、何を指すのか、看護師の仕事とどう関係するのか、少し分かりにくい言葉でもあります。
私がICTという言葉を初めて聞いたのは、看護師として離島へ派遣されたときでした。そこで知ったのが、遠隔死亡診断や遠隔画像診断です。
ただ、振り返ってみると、病院勤務時代にも電子カルテや院内の情報共有システムなどを使っていました。言葉を知らなかっただけで、医療用ICTにはずっと前から触れていたようです。
医療用ICTという言葉を知ったのは、離島へ派遣されたとき
離島では、都市部の病院と同じように医師や専門職がそろっているとは限りません。専門医が島外にいたり、天候によって船や飛行機が動かなかったりすることもあります。
そのような環境で、離れた場所にいる医療者同士をつなぐのが医療用ICTでした。画面越しに会話する、画像を送る、必要な情報を共有する。通信技術が、距離による医療の制約を補っていたのです。
パソコンやタブレットを置くだけではなく、それらを使って人と情報をつなぎ、医療に活かす仕組みまで含めて考えると分かりやすくなります。
そもそも医療用ICTとは?
ICTは「Information and Communication Technology」の略で、日本語では「情報通信技術」と訳されます。情報を集め、保存・処理し、通信によって人と人の間で共有するための技術です。
医療分野で使われるICTは、一般に「医療ICT」と呼ばれます。この記事では、医療のために使われることが伝わりやすいように「医療用ICT」と表記します。
| 言葉 | 簡単な意味 |
|---|---|
| IT | コンピューターやデータを扱う情報技術 |
| ICT | ITに加え、通信を通じて情報を共有・活用する考え方 |
| 医療用ICT | ICTを診療、看護、情報共有、業務支援などに活かすもの |
| 医療DX | デジタル技術を使い、医療の仕組みや働き方そのものをよりよく変えていく取り組み |
実際にはITとICTがほぼ同じ意味で使われることもあります。違いを厳密に暗記するより、「ICTは情報を伝え、つなぎ、活用するところまで含む」と理解しておけば十分です。
看護師がすでに触れている身近な医療用ICT
医療用ICTと聞くと、遠隔医療のような新しい仕組みを想像しがちです。しかし、病院や施設で日常的に使っているものも含まれます。
施設の設備や運用によって該当する範囲は異なりますが、「情報をデジタルで扱い、通信によって誰かへ伝える」という視点で見ると、医療用ICTは身近なところにあります。
離島で知った医療用ICTの活用例
私にとって特に印象に残ったのは、医療資源が限られる場所と、島外の医師や専門医をつなぐ使い方でした。
遠隔死亡診断
医師が遠方にいて速やかな対面での死後診察が難しい場合、一定の要件を満たせば、ICTを利用した死亡診断等が行われることがあります。
所定の教育を受けた看護師が、医師とリアルタイムで連絡を取り、医師の判断に必要な情報や画像を報告します。医師はその情報をもとに死亡の事実や異状の有無を判断し、死亡診断書を交付します。
死亡診断を行うのは医師です。看護師は、あらかじめ決められた条件と手順のもとで、遠隔にいる医師の診断を支援します。誰でも、どのような死亡事例でも実施できる仕組みではありません。
遠隔画像診断
遠隔画像診断では、離島やへき地の医療機関で撮影したX線、CT、MRIなどの画像と必要な情報を、ネットワークを通じて別の医療機関へ送ります。画像診断を担当する医師が読影し、その所見を現地へ報告する仕組みです。
画像を撮影する機器があっても、読影を専門とする医師が常駐しているとは限りません。遠隔画像診断は、離れた場所にいる専門医の力を地域医療へ届ける方法の一つです。
| 活用例 | ICTでつなぐもの | 看護師との関係 |
|---|---|---|
| 遠隔死亡診断 | 現地の状況と遠隔地の医師 | 所定の要件のもと、医師に必要な情報を報告する |
| 遠隔画像診断 | 撮影画像と画像診断を担当する医師 | 検査前後の患者対応や、結果を踏まえた診療の支援に関わる |
| オンライン診療 | 患者と離れた場所にいる医師 | 機器の準備、患者の状態確認、診療後の支援に関わる場合がある |
医療用ICTは看護師にどう関係する?
看護師は、ICTをただ操作するだけの立場ではありません。患者のそばで得た情報を、離れた医師や他職種へつなぐ役割を担います。
- 患者の状態を観察し、必要な情報を整理する
- 画面の向こうにいる医師へ、言葉で正確に伝える
- 機器を使う患者や家族の不安を軽減する
- 遠隔からの指示や助言を理解し、現場のケアへつなげる
- 患者情報を安全に扱う
- 通信できない場合の対応も確認しておく
画質が良くなっても、患者の表情、におい、皮膚に触れた感覚、いつもとの違いなど、画面だけでは伝わりにくい情報があります。現場にいる看護師の観察と説明は、医療用ICTが広がるほど重要になるでしょう。
医療用ICTで看護師の働き方はどう変わる?
今後、医療用ICTが広がることで、看護師の仕事がすべて機械に置き換わるわけではありません。一方で、情報の受け取り方や他職種との連携方法は変わっていく可能性があります。
| 変化 | 期待できること | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 記録・情報共有のデジタル化 | 転記や伝達の重複を減らせる | 入力や通知が増えると、かえって負担になることもある |
| 遠隔での連携 | 地域にいながら専門家へ相談できる | 誰が判断し、誰が対応するかを明確にする必要がある |
| モニタリングの拡大 | 状態変化へ早く気づける可能性がある | アラーム疲れや、データだけに頼る危険がある |
| 場所を越えた教育 | 離島やへき地でも研修を受けやすくなる | 実技や対面での学びも引き続き必要になる |
| 患者・家族への説明 | 通院や相談の選択肢が増える | 機器を使いにくい人への支援が欠かせない |
技術は、導入しただけで看護師の負担を減らしてくれるとは限りません。現場の流れに合っているか、安全に使えるか、患者にとって分かりやすいかを確認しながら運用する必要があります。
これから看護師が大切にしたいこと
医療用ICTについて学ぶといっても、プログラミングや機器の仕組みをすべて理解する必要はありません。まずは、自分の職場にある仕組みを安全に使えることから始められます。
パソコン操作が速いことと、ICTを安全に活用できることは同じではありません。看護師に求められるのは、技術の便利さと限界を理解し、患者へのケアにつなげる力です。
まとめ:言葉を知らなくても、医療用ICTはすでに身近にある
私は離島へ派遣されたときに、初めてICTという言葉を意識しました。しかし振り返ると、電子カルテや院内の情報共有など、病院勤務時代から医療用ICTには触れていました。
離島で知った遠隔死亡診断や遠隔画像診断は、ICTが単なる便利な機器ではなく、距離を越えて人と情報をつなぎ、地域医療を支える仕組みであることが分かる例です。
これから医療用ICTが広がっても、患者のそばで観察し、正確に伝え、不安に寄り添う看護師の役割はなくなりません。まずは職場で使っている仕組みに目を向け、「誰と誰をつなぎ、何を支えているのか」を考えることが、医療用ICTを知る第一歩です。
参考資料・出典
- アイメディ:医療ICTとは?導入メリットと活用事例を分かりやすく解説
- 日本看護科学学会:テレナーシング(遠隔看護)
- 厚生労働省:看護関連政策「ICTを活用した看護」
- 厚生労働省:情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン
- 日本医学放射線学会:遠隔画像診断に関するガイドライン
- 徳洲会グループ:遠隔画像診断を活用―日高病院と石垣島病院
本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。医療用ICTの設備、運用、看護師が担う役割は、医療機関や地域によって異なります。遠隔死亡診断等には所定の要件があります。実際の業務では、所属施設の規程、手順、医師の指示、最新のガイドラインをご確認ください。
