「看護師も副業する時代」「収入源は複数あったほうがいい」。SNSや動画でそんな言葉を目にすると、何もしていない自分だけが遅れているように感じることがあります。
けれども、誰かがしていることと、自分に副業が必要なことは別です。副業で収入が増えても、休日、睡眠、家族との時間が減り、本業で疲れ切ってしまえば、望んでいた生活から遠ざかることもあります。
副業を始める前に、「何を増やしたいのか」「いくら必要なのか」「生活の何時間まで使えるのか」を決めましょう。副業が看護師の生活を豊かにするか、疲弊させるかは、仕事の種類だけでなく、目的と時間の使い方で変わります。検討した結果、今は副業をしないと決めることも立派な選択です。
みんながしているからではなく、副業は本当に必要か考える
看護師の副業率を示す統一的な国内統計はありません。民間アンケートでは副業中の割合に大きな差があり、調査対象や「副業」の定義も異なります。ポイント活動やフリマを含める調査と、二つ以上の有償の仕事を持つ人だけを数える調査を、同じ数字として比べることはできません。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が2022年に18〜64歳の就業者18万8,980人を調査したところ、二つ以上の仕事を持つ人は6.0%でした。副業する理由は「収入を増やしたい」が54.5%で最も多く、「活躍できる場を広げたい」18.7%、「仕事で必要な能力を活用・向上させたい」11.0%など、お金以外の目的もありました。
世の中が副業を推進しているように見えても、副業は義務ではありません。まず、今困っていることが副業で解決するのかを考えてみましょう。給与への不満が大きいなら、手当や働き方の見直し、転職、家計の固定費の整理が、副業より少ない負担で効果を生む場合もあります。
最初に決めたいのは「何をするか」ではなく「何のためか」

「看護師におすすめの副業」を検索する前に、副業で増やしたいものを一つ決めます。目的が違えば、向いている仕事も、成功と呼べる状態も変わるからです。
一つの副業に、収入、成長、自由、楽しさのすべてを求めると、選びにくくなります。「最初の3か月は月5万円を目指す」「今年は文章を書く経験をつくる」など、最初の目的を絞ると判断しやすくなります。
お金が目的なら「いくらあれば十分か」を先に決める
「できるだけ多く」では終わりがありません。本業での収入以外に月2万円必要な人と、月10万円必要な人では、必要な時間、責任、選ぶ仕事が変わります。
たとえば、半年後の旅行費12万円なら月2万円、年間の資格取得費18万円なら月1万5,000円が一つの目安です。税金や必要経費を考え、手取りで必要な額と、働く期間を分けて考えます。
時給や1件の報酬だけでなく、求人探し、移動、準備、記録、連絡、請求などを含む「実際に使う時間」で考えましょう。業務委託では、パソコンやソフト、通信費などを自分で負担することもあります。高い報酬に見えても、手元に残るお金と休息を失う大きさは仕事ごとに異なります。
収入のために副業を始めることは悪いことではありません。大切なのは、目標額へ達した後も、惰性で休日を働き続けないことです。
副業に使えるのは「空いている時間」ではなく「生活を守った後の時間」
勤務表の休日が、そのまま副業に使える時間とは限りません。夜勤明けの休息、家事、通院、育児や介護、勉強も生活に必要です。何もしないで休む時間はもちろん、読書や映画を楽しむこと、友人や恋人と過ごすことも大切な時間です。
| 時間 | 確認すること |
|---|---|
| 睡眠と回復 | 夜勤前後の睡眠、連続勤務後の休息を削っていないか |
| 本業の準備 | 通勤、着替え、学習、持ち帰った課題を含めているか |
| 生活 | 食事、家事、通院、家族との時間を後回しにしていないか |
| 予定のない時間 | 急な残業や体調不良へ対応できる余白が残っているか |
WHOとILOがまとめた研究では、週55時間以上働く人は、週35〜40時間の人と比べて虚血性心疾患と脳卒中のリスクが高いことが示されています。これは「55時間までは安全」という境界ではありませんが、本業と副業を合計した労働時間を見る重要性を教えてくれます。
看護は集中力と判断を必要とする仕事です。眠気、いら立ち、食事の乱れ、勤務中のヒヤリとした場面が増えたら、副業の回数や期限を見直すサインです。
目的に合う副業を「時間の残り方」で選ぶ

ここではおすすめ順に並べません。仕事によって得られるものと、使う時間が異なるためです。
働いた分がすぐ収入になる仕事
健診、施設、訪問看護、イベント救護などの追加勤務は、条件が明確なら収入を見通しやすい選択肢です。一方、働かなければ収入にならず、移動や身体的負担も増えます。経験のない医療行為や、緊急時の支援体制が不明な仕事を「単発だから」と安易に選ばないことも大切です。
経験を別の形に変える仕事
医療・看護ライティング、教材制作、講師、企業のコンテンツ支援などは、看護経験を言葉や制作物として残せます。最初は学習や実績づくりに時間がかかり、すぐ収入にならないこともあります。守秘義務、著作権、医療情報の正確性、広告であることの表示にも注意が必要です。
看護から離れて生活を広げる仕事
販売、写真、デザイン、語学、地域活動に近い仕事など、看護師資格を使わない選択もあります。看護のことを考えない時間が気分転換になり、別の人間関係や技能が育つ人もいます。ただし、高額な教材やスクール、収益を保証する勧誘には慎重になりましょう。
同じ月3万円でも、休日を3日使う仕事と、半年後にも使える技能が残る仕事では意味が違います。収入だけでなく、体力、自由度、初期費用、将来に残るものを比べます。
海外研究が示す、複数の仕事を持つことの両面
海外では、看護師が複数の仕事を持つことを「dual practice」や「multiple job holding」と呼びます。既存研究をまとめたスコーピングレビューでは、追加収入のほか、新しい技能、仕事の多様性、勤務時間を選べることなどが、複数就業の理由や魅力として挙げられています。
一方で、長時間労働、疲労、本業への影響、患者安全への懸念も示されています。国や調査によって副業の定義と割合が異なり、看護師本人の生活の質や家族への影響は、まだ十分に研究されていません。
副業には、時間や気力を使う「消耗」と、技能や人とのつながりを得る「充実」の両方があります。3か月後に給与だけでなく、睡眠、疲労、家族との時間、新しく得た経験まで振り返る必要があります。
米国の公的な看護職調査を用いた報告では、複数の仕事を持つ登録看護師は2022年に約1割でした。ベルギーの看護師924人を対象とした横断調査では38.3%でした。数字の差は、国の雇用制度や調査方法、回答者の違いも含むため、日本の看護師へそのまま当てはめることはできません。
大切なのは「何割の看護師がしているか」ではなく、自分が副業で何を得て、何を失いそうかを見ることです。
始める前に確認したい、仕事と生活を守るルール
- 就業規則:副業の可否、届出・許可、禁止される業務、利益相反を確認する
- 契約形態:雇用契約か業務委託かを確認し、労働条件と責任範囲を読む
- 労働時間:雇用される副業では、本業との労働時間の通算が必要になる場合がある
- 公務員:民間勤務と同じルールではないため、所属先の服務規律と許可基準を確認する
- 守秘義務:患者、同僚、勤務先を特定できる情報、制服、施設内の画像を発信しない
- 税金:所得税の確定申告と住民税の申告を分けて確認し、収入と経費を記録する
- 保険:医療行為を伴う仕事では、賠償責任保険の補償範囲を確認する
「副業所得が20万円以下なら何もしなくてよい」とは限りません。給与を複数から受け取る場合、年末調整の状況、所得の種類などで扱いが変わり、所得税の確定申告が不要でも住民税の申告が必要な場合があります。個別の判断は税務署や自治体へ確認してください。
月1回から小さく試し、3か月後に続けるか決める

収入が目標に届いても、休息や本業の安全を損なっていれば方法を変えます。反対に収入が少なくても、将来使える技能や新しい居場所が得られ、生活に満足しているなら、その副業には別の価値があります。
「始めたから続けなければ」と考える必要はありません。減らす、休む、やめる。副業をしない生活へ戻ることも、自分で働き方を選んだ結果です。
まとめ:副業は、生活を豊かにするための手段
みんなが副業をしているように見えても、自分まで急いで始める必要はありません。まず、副業が今の悩みを解決するのか、ほかに負担の少ない方法はないかを考えてください。
始めるなら、目的、目標額、期限、使える時間を決めます。収入を増やす仕事、経験を育てる仕事、看護から離れて世界を広げる仕事のどれが、自分の望む暮らしにつながるかを比べましょう。
副業は休日をすべて仕事に変えるためのものではありません。本業、睡眠、大切な人との時間を守りながら、収入や技能、経験、別の居場所を小さく増やす。その結果として生活が少し豊かになることが、Smart Nurse Labの考える副業の成功です。
参考資料・出典
- 労働政策研究・研修機構:副業者の就労に関する調査
- 厚生労働省:副業・兼業
- 厚生労働省:副業・兼業と労働条件
- 日本看護協会:2023年 病院看護実態調査
- 日本看護協会:2025年 病院看護実態調査
- マイナビ看護師:看護師は副業してもいい?
- Russoほか:Understanding nurses’ dual practice: a scoping review
- HRSA:National Sample Survey of Registered Nurses
- Multiple job holding and its influencing factors among Belgian nurses
- Multiple Jobholding: An Integrative Systematic Review
- WHO・ILO:Long working hours and health
- 国税庁:給与所得者で確定申告が必要な人
本記事は2026年7月27日時点で確認できる情報をもとに作成しています。副業の可否、労働時間、税務、社会保険などの扱いは、勤務先、契約、所得の種類、居住地などにより異なります。個別の判断は勤務先、税務署、自治体、社会保険窓口、専門家へご確認ください。掲載画像はすべて生成イメージであり、人物、書類、施設は実在のものではありません。
